
株式会社ココリーチ代表取締役の島田早織さん。ウェアラブルデバイス×エンターテインメントの事業仮説を確かめるため、UC San Diegoのインキュベーション施設を拠点としたプログラムに参加。「背景まで伝える」ことの重要性と、エコシステムをつくる側に回りたいという思いを語ります。
GTIE海外渡航プログラムでサンディエゴに渡航し、ウェアラブルデバイスを活用した新しい体験価値の創出に向けた事業仮説の検証や、現地の研究機関・起業家との対話に取り組んだ、株式会社ココリーチ代表取締役の島田早織さん。
これまでにも海外のアクセラレータープログラムへの参加を重ねながら、研究を起点とした技術の社会実装に取り組んできた島田さんは、現在、ウェアラブルデバイスとエンターテインメント領域を掛け合わせた新しいプロダクトの開発を進めています。
今回の渡航では、UC San Diego(UCSD)のインキュベーション施設を拠点としたプログラムに参加し、自身のプロダクトの方向性について現地メンターからフィードバックを受けるとともに、研究環境やスタートアップ支援の仕組みを実地に確認しました。
過去にシリコンバレーでハードウェア事業としての評価の難しさを経験したことも踏まえ、今回のサンディエゴ渡航は、自身の事業の現在地を改めて見つめ直す機会として位置づけられていたといいます。
今回は、GTIE海外渡航プログラムへの参加の背景や現地での取り組み、そしてその経験を通じて見えてきた今後の展望についてお話を伺いました。
インキュベーション施設でのプログラム参加を通じて行ったピッチ検証と現地環境の理解

今回参加されたプログラムでは、具体的にどのような活動をされたのでしょうか?
今回のサンディエゴでのプログラムは5日間ほどの短期間ではありましたが、UCSDの中にあるインキュベーション施設を拠点に、メンターからの指導を受けながら自身のプロダクトのピッチをブラッシュアップしていく内容が中心でした。
現地ではまず、自分たちが取り組んでいるプロダクトについて実際にピッチを行い、その内容についてメンターの方々からフィードバックを受けるところから始まりました。スライドの構成や伝え方について一枚ずつ丁寧に見ていただく時間もありましたし、参加者全員の前でフィードバックを受ける機会もありました。
また、ピッチの時間も状況に応じて変わっていて、5分で説明する場合もあれば、2分や30秒といった短い時間で伝える練習もありました。実際に投資家に説明する場面を想定しながら、「限られた時間で何を伝えるべきか」を繰り返し整理していくような実践的な内容だったと感じています。
午前中は資料構成やストーリーテリングや、TAM・SAM・SOMといった事業整理の考え方についてのインプットの時間などもありました。実際に起業経験のあるメンターの方から直接話を聞くことができたので、理論だけではなく実務に基づいた視点で学べたことが印象に残っています。
午後はメンターとの個別ディスカッションや施設見学、研究室の訪問などの時間もあり、UCSDの中でどのように研究と起業支援が接続されているのかを実際に見ることができました。短い期間ではありましたが、自分たちのプロダクトを改めて整理し直す機会としても、とても密度の高い時間だったと感じています。
過去の海外経験で得た課題意識を踏まえ現在の事業仮説を検証するため参加を決意
どのような経緯でこのプログラムに参加しようと思ったのですか?
これまでも海外のプログラムには継続的に参加していて、例えばスタンフォード大学のd.schoolに学生を派遣するプログラムなどにも参加してきました。
そのときは現在とは異なり、認知症に関するウェアラブルデバイスのプロダクトを中心に取り組んでいましたが、現地ではハードウェア領域の事業に対して「スケールしにくい」といった理由から評価が難しい場面も多くあったんです。
ただ、その経験があったからこそ、自分たちとしては改めてハードウェア領域に取り組む意味を整理するきっかけにもなりました。ソフトウェアや生成AIの領域が急速に発展していく中で、まだデータ化されていない現実世界の情報を取得するセンシングの領域には、これから大きな可能性があるのではないかと考えるようになりました。
そうした背景の中で現在取り組んでいるプロダクトの方向性がどのように受け止められるのかを改めて確かめたいという思いもあり、今回のサンディエゴ渡航に参加しました。
またUCSDは医工学やハードウェア領域の研究が盛んな環境でもあるため、自分たちの現在地を確認するとともに、現地の研究やスタートアップ支援の状況を直接見てみたいという目的もありました。
現地でのメンターとの対話を通じて意識した「継続的な関係をつくる」という姿勢
現地ではどのようなチャレンジをされたのでしょうか?
今回の渡航では、市場調査だけでなく、現地で継続的につながることができる協力者を見つけることも目的の一つとして意識していました。
過去に海外のプログラムに参加した際、短期間で多くの人と出会うことはできても、その後も関係が続いていくようなつながりをつくることの難しさを感じた経験があったためです。
そのため今回は、単に名刺交換をするのではなく、帰国後も連絡を取り続けられるような関係を築くことを意識していました。
限られた時間の中で自分の事業の「背景まで伝える」ことの重要性を実感した現地での対話
現地のメンターや起業家との対話の中で印象に残っていることはありますか?
今回の渡航の中で特に印象に残っているのは、現地のシリアルアントレプレナーの方々やメンターとの対話の進み方でした。
現地では、短い時間の中でピッチを行い、その場でフィードバックが返ってくることが多くあります。その分、説明の仕方によってはプロダクトの一部だけを切り取って理解され、その時点で評価が決まってしまうこともあると感じました。
実際に、一度話しただけでは意図が十分に伝わらず、「それは違うのではないか」といった形で判断されてしまう場面もありました。
ただ、そのまま受け止めて終わるのではなく、「なぜ自分はこのテーマに取り組んでいるのか」「どういう背景からこの仮説に至っているのか」といった文脈まで補足して伝えることが重要だと感じました。
特に英語でのコミュニケーションになるとどうしても情報量が少なくなってしまいがちですが、短時間で判断される環境だからこそ、表面的な説明だけではなく、その背後にある考え方まで含めて伝えていく必要があると実感しました。
こうした対話を通じて、自分のプロダクトそのものだけでなく、自分がなぜそのテーマに取り組んでいるのかという部分まで含めて説明することの重要性を改めて認識する機会になりました。
「データ化されていないものをデータ化する」領域としてのハードウェアに取り組む理由
現在取り組まれているウェアラブルデバイスの事業には、どのような背景があるのでしょうか?
もともと私は、認知症に関する研究の中でウェアラブルデバイスを活用しながら、高齢者の生活習慣や心拍データと認知機能の関係を分析する研究に取り組んできました。
その研究の中で感じていたのは、ウェアラブルデバイスそのものの価値というよりも、「そもそも多くの人が日常的にデバイスを身につける状態をどうつくるか」という課題でした。
研究としてデータを取得することはできても、社会実装という観点で考えると、継続的に使ってもらう仕組みをどう設計するかが重要だと感じるようになりました。
そうした背景から、まずはウェアラブルデバイスを自然に使ってもらえる場面をつくる必要があると考え、現在はエンターテインメント領域への応用に取り組んでいます。
ライブやスポーツ観戦といった場面であれば、無理なく装着され、体験の一部として受け入れてもらえる可能性があると考えたためです。
またもう一つの背景として、生成AIが急速に普及していく中で、「すでにデータになっている情報を活用する領域」は今後ますますAIが担うようになると感じています。その一方で、まだデータ化されていない身体や感情の情報を取得するようなセンシングの領域には、これから大きな可能性があるのではないかと考えています。
そうした意味でも、ウェアラブルデバイスのように現実世界の情報をデータとして取得するハードウェアの領域には、今後重要な役割があると考えています。
個別のプロダクトにとどまらずエコシステムをつくる側に回りたい

プログラムへの参加を通じて、ご自身の中でどのような変化や気づきがありましたか?
今回の渡航を通じて改めて感じたのは、自分自身のプロダクトを前に進めていくことに加えて、将来的にはエコシステムをつくる側に回りたいという思いでした。
これまでも海外のアクセラレータープログラムなどに継続的に参加してきたのは、自分の事業を前に進めるという目的だけでなく、どのようにスタートアップが育っていくのか、その環境がどのようにつくられているのかを実際に見てみたいという関心があったためです。
現地の大学やインキュベーション施設では、研究と起業支援が自然につながる仕組みが整えられていて、起業家だけでなく研究者や学生も含めて挑戦しやすい環境がつくられていることが印象的でした。
そうした環境を見ていく中で、自分自身も単にプロダクトをつくる側としてだけではなく、将来的には新しい挑戦が生まれる場そのものをつくる側に関わっていきたいという思いがより強くなったと感じています。
現在取り組んでいるウェアラブルデバイスの事業についても、単体のプロダクトとして成立させるだけでなく、その周辺に新しい価値が生まれていくような広がりを意識しながら進めていきたいと考えています。
事業の成長とバイアウトも視野に入れながら次の挑戦につなげていきたい
今後取り組んでいきたいことについて教えてください。
現在取り組んでいるウェアラブルデバイスの事業については、プロダクトとしてしっかり形にしていくことを前提にしながら、近い将来、バイアウトも一つの選択肢として考えています。
もちろんまずは事業として成立させることが重要ですが、その先にどのような形で価値を社会に届けていくのがよいのかという点については、さまざまな可能性を視野に入れながら検討していきたいと考えています。
また、自分自身としては一つの事業に長期的にとどまり続けるというよりも、その経験を次の挑戦につなげていきたいという思いもあります。
これまで海外のプログラムに継続的に参加してきた背景にも、個別のプロダクトを成長させるだけでなく、スタートアップが生まれる環境そのものに関わっていきたいという関心があります。
現在取り組んでいる事業についても、例えば2027年頃を一つの目安として一定の形にしていくことを意識しながら、その経験を次の取り組みやエコシステムづくりにつなげていきたいと考えています。
将来的には、自分自身が新しい挑戦を支える側にも回りながら、技術と事業の両方の視点からスタートアップが生まれやすい環境づくりに関わっていきたいと思っています。
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